セーラー出版は2013年7月1日をもちまして、社名を「らんか社」に変更しました。

  • “おせっかい”をふわりとのせて…

    たいせつなてがみ

    マックス・ベルジュイス/絵と文
    野坂悦子/訳

    30×22cm 33P
    定価1,650円(本体1,500円)


    新しい年度が始まり、新たに知り合いになった人に
    初めてメールの送信ボタンを押した後……。
    返信を待つ時間が、普段より少しだけ長く感じて、
    “ああ、こんな気持ちになったこと、前にもあったなあ”と新鮮に思います。
    やりとりが便利になった分、相手からの返事を待つ楽しみが減ってしまいましたね。
    ましてや、出した人と受けた人、両方の気持ちに
    ゆったりと寄り添える機会なんて、なかなかありません。
    でも、この本に登場するちょっぴりおせっかいなワニくんと一緒なら……

    アメリカの大統領に手紙を書いた王さま。
    “手紙はポストに投函しましょう”といったお付の者に対して、 手紙が無事に届くかどうか心配! とワニくんは飛び出します。
    切手を貼って、ポストに入れればいいのに、 なんておせっかいなんだろうと思います。
    この“おせっかい”がきっかけで、旅が始まります。
    “無事に大切な手紙を届けたい!”というワニくんの必死な思いは
    どんどん先走り、もう出発してしまった手紙の上に
    とびのってしまったかのようです。

    手紙はワニくんの気持ちの重みで、さらに加速してしまい、
    追いかけるワニくんと手紙との距離はなかなか縮まりません。

    旅が長引くにつれて、ワニくんと手紙との距離は広がるようですが、
    一方で、わたしたち読者とワニくんの距離は近づくようです。
    ワニくん、がんばれ! ワニくん、あぶない!
    ワニくんの旅がハードになればなる程、共感し、応援したくなります。
    手紙を想うワニくん、ワニくんを想う読者……。

    読者→ワニくん→手紙…と片想いの連鎖?が心地よくなってきたころ、
    ついにワニくんが手紙に追いつきます!
    ブレーキが効かず、このまま勢いにまかせて “自分が、自分が”と前面に出てしまうと、
    “おせっかい”全開で恥ずかしいのですが、
    いざ、受け取る相手を前にすると“おせっかい”を退ける心配りも忘れません。
    大統領に“おてがみです!”と差し出したワニくん、
    名乗る前に(まあ、マナー違反ではありますが、
    あくまでも手紙が主役ということで)、まずは手紙を。
    さっと一歩下がり、ふたりのやりとりを見守ります。

    大切な手紙が渡ったのは、長い長い距離でしたが、
    王さまと大統領の距離はいっそう近づいたようです。

    つらい旅の途中では、決して弱音をはかなかったワニくん。
    最後の場面では、さりげなく涙を流しています。
    “苦労をふりかえった主人公としての涙”ではなく、
    “手紙を追いかけた脇役として、ハッピーエンドを喜ぶ涙”なのでしょう。

    この作品は、最初はオランダの郵便会社(PPT)の企画として発表された後、
    絵本として出版するにあたって制作しなおしたのだそうです。
    詳細は、マックス・ベルジュイスの伝記『かえるでよかった』ヨーケ・リンデルス/野坂悦子訳/当社刊)を御覧ください。

    読後の感想として、
    ① 読後、手紙って無事に届くのかしら?
    と疑問に思うマイナス面 
    VS 
    ② 読後、誰かに手紙が書きたくなる! 
    という積極的なプラス面  
    ……二つを天秤にかけると、②のプラスの方が勝ちそうなので、
    企画としても成功したのでしょう。

    郵政省 (現総務省)が制定したふみの日(毎月23日)のなかでも、
    7月23日は、“文月ふみの日”で、記念切手の発売など
    いろいろな企画が準備されているようです。
    久しぶりに手紙を書いて、誰かの返事を待ってみませんか? 
    自分の気持ちをふわりとのせると、待つ楽しみも倍増しそうです。
    ただし、“おせっかい”が重すぎると、
    届かなかったり、返事が遅くなったりすることがあるかもしれないのでご注意を!

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