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“おせっかい”をふわりとのせて…
たいせつなてがみ
マックス・ベルジュイス/絵と文
野坂悦子/訳30×22cm 33P
定価1,650円(本体1,500円)
新しい年度が始まり、新たに知り合いになった人に
初めてメールの送信ボタンを押した後……。
返信を待つ時間が、普段より少しだけ長く感じて、
“ああ、こんな気持ちになったこと、前にもあったなあ”と新鮮に思います。
やりとりが便利になった分、相手からの返事を待つ楽しみが減ってしまいましたね。
ましてや、出した人と受けた人、両方の気持ちに
ゆったりと寄り添える機会なんて、なかなかありません。
でも、この本に登場するちょっぴりおせっかいなワニくんと一緒なら……アメリカの大統領に手紙を書いた王さま。
“手紙はポストに投函しましょう”といったお付の者に対して、 手紙が無事に届くかどうか心配! とワニくんは飛び出します。
切手を貼って、ポストに入れればいいのに、 なんておせっかいなんだろうと思います。
この“おせっかい”がきっかけで、旅が始まります。
“無事に大切な手紙を届けたい!”というワニくんの必死な思いは
どんどん先走り、もう出発してしまった手紙の上に
とびのってしまったかのようです。手紙はワニくんの気持ちの重みで、さらに加速してしまい、
追いかけるワニくんと手紙との距離はなかなか縮まりません。旅が長引くにつれて、ワニくんと手紙との距離は広がるようですが、
一方で、わたしたち読者とワニくんの距離は近づくようです。
ワニくん、がんばれ! ワニくん、あぶない!
ワニくんの旅がハードになればなる程、共感し、応援したくなります。
手紙を想うワニくん、ワニくんを想う読者……。読者→ワニくん→手紙…と片想いの連鎖?が心地よくなってきたころ、
ついにワニくんが手紙に追いつきます!
ブレーキが効かず、このまま勢いにまかせて “自分が、自分が”と前面に出てしまうと、
“おせっかい”全開で恥ずかしいのですが、
いざ、受け取る相手を前にすると“おせっかい”を退ける心配りも忘れません。
大統領に“おてがみです!”と差し出したワニくん、
名乗る前に(まあ、マナー違反ではありますが、
あくまでも手紙が主役ということで)、まずは手紙を。
さっと一歩下がり、ふたりのやりとりを見守ります。大切な手紙が渡ったのは、長い長い距離でしたが、
王さまと大統領の距離はいっそう近づいたようです。つらい旅の途中では、決して弱音をはかなかったワニくん。
最後の場面では、さりげなく涙を流しています。
“苦労をふりかえった主人公としての涙”ではなく、
“手紙を追いかけた脇役として、ハッピーエンドを喜ぶ涙”なのでしょう。この作品は、最初はオランダの郵便会社(PPT)の企画として発表された後、
絵本として出版するにあたって制作しなおしたのだそうです。
詳細は、マックス・ベルジュイスの伝記『かえるでよかった』ヨーケ・リンデルス/野坂悦子訳/当社刊)を御覧ください。読後の感想として、
① 読後、手紙って無事に届くのかしら?
と疑問に思うマイナス面
VS
② 読後、誰かに手紙が書きたくなる!
という積極的なプラス面
……二つを天秤にかけると、②のプラスの方が勝ちそうなので、
企画としても成功したのでしょう。郵政省 (現総務省)が制定したふみの日(毎月23日)のなかでも、
7月23日は、“文月ふみの日”で、記念切手の発売など
いろいろな企画が準備されているようです。
久しぶりに手紙を書いて、誰かの返事を待ってみませんか?
自分の気持ちをふわりとのせると、待つ楽しみも倍増しそうです。
ただし、“おせっかい”が重すぎると、
届かなかったり、返事が遅くなったりすることがあるかもしれないのでご注意を!