セーラー出版は2013年7月1日をもちまして、社名を「らんか社」に変更しました。

  • てのひらにひろがるお城

    おうさまのおしろ

    しろませいゆう/文と絵

    21×23cm 31P 定価1,650円(本体1,500円)


    今年の冬は、雪がたくさん降り、かまくら作りに
    夢中になる人が多かったのではないでしょうか。
    たいていの人は子どもの頃から、
    冬には雪の城、夏には砂の城、
    段ボールや積木の城、
    お城を作って、そして壊してきました。
    大人になっても“自分だけの城”に憧れて、
    お城のある遊園地も大好きです。

    けれども普段から“お城“に親しんで生活している人は少ないと思います。

    窓からお城が見えたり、歩いていける距離にお城があったり、
    お城の警備や掃除の仕事をしていたりする方はごくわずかです。
    ポルトガルに宿泊できるお城があると聞きましたが、
    お城に住んでいる人は少ないと思います。
    維持も大変そうだし、お城と普段の暮らしとはちょっと距離があります。

    この本は“お城の生活”が身近に感じられる絵本です。
    本の形は、正方形に近い形、折り紙よりひとまわり大きいサイズです。
    描かれているのはコンパクトなお城です。
    ひらがなのタイトルだったり、可愛らしい王様たちの姿は
    一見すると、小さな子どもの本と思われてしまうかもしれませんが、
    ぜひ大人に手にとっていただきたい絵本です。

    罫線

    本を広げると、横長の画面。
    地平線が広がります。
    中心にお城があり、キャラクターが並び、
    ゲームの画面のようでもあります。

    おうさまも家来もシンプルな形で、
    王冠をのぞいては違いがあまりなく、
    まるで、本の題名とよくにた名前の
    人気のブロックのシリーズで
    遊んでいるかのようです。
    (組み立てるのが難しく、大人にも人気があるようですね)

    そんなシンプルな形だからこそ、
    一定の距離を保って、おしろの日々を定点観測するうちに、
    親しみがわいてきて、こちらからの距離が近くなっていくようです。

    季節が変わり、時間が流れ、
    喜びもあり、悲しみもあり
    音楽がきこえてきて、
    風もふいてきて。

    物語が進むにつれ、そこに描かれていないもの……
    堀があったり、井戸があったり、櫓があったり、
    海に面している城ならば舟をとめる場所が必要だし、
    馬をつないでおく場所もあるだろうな。
    そんな様子も見えてきそうです。

    ヨーロッパの古城のようであり、
    アジアのお城のようでもあり、
    あのお城のあの時代、あの人々、あの場面を重ねて、
    いつの間にか迷い込んでしまいます。
    そして歴史が語られていたことに気づかされます。

    やがて画面に地平線はなくなり
    いつの間にか遠くまで行って、そして急にひき戻されたような
    時間と空間の遠近感に気づかされ、くらっとします。

    前のコラム 次のコラム