セーラー出版は2013年7月1日をもちまして、社名を「らんか社」に変更しました。

  • ピエロとクマと闇夜と

    オレゴンの旅

    ルイ・ジョス/絵 ラスカル/文
    山田兼士/訳

    30×22cm 33P 定価1,980円(本体1,800円)


    ピエロの”ぼく”と
    曲芸をするクマの”オレゴン”。
    サーカスを抜け出したのは闇夜の晩でした。

    防犯カメラもGPSもない時代
    とはいえ、ピエロと、大きなクマの移動は目立ちます。
    暗闇と、そこで生きる人たちの灯りを頼りに
    二人は森を目指します。

    ルイ・ジョスの描く背景は、
    表紙を見てもわかるように、
    まず、大自然に広がる季節の変化がとても美しいのですが、
    それ以上に実は、街の夜景も印象に残ります。

    街では、灰色がかった夜空が広がります。
    そこに、黄色に赤や青が混ざった灯りが滲んでいて、
    夜間働く人たちの無言の気配を感じます。

    そこでは多くの人が働いています。
    街灯、信号、車のライト、排気ガス。
    眠らない日常があります。
    夜間も営業している店の看板。
    テレビの灯りを眺めながら夜中にかじるハンバーガー。
    工場からは一日じゅう煙が出ていて、
    深夜発のバスもあれば、
    長距離を走るトラックもあります。
    灯りのもとで生活する人たちの力を借りながら、
    二人は森を目指すのでした。

    夜景といえば、同じコンビによる絵本
    「エヴァー花の国」(絶版)も思い浮かびます。
    著者が描いた深い、深い闇は、
    遠い国から連れてこられた10歳の少女が歩く
    パリの街並みへとつながります。

    ひとりで夜明けまで街を歩きまわり、花を売るエヴァ。
    暗闇と、街灯の境目付近を
    花束を持って歩くエヴァを遠くから描いた場面。
    後に続く野良犬の影が、エヴァの小ささを引き立てています。

    屋台の灯りのもと、
    大人と並んでハンバーガーをかじる小さな姿。
    (ここでもハンバーガーが登場)。
    誰もエヴァに気を留めません。
    クローズアップされる場面がほとんどなくて、
    遠景の闇の中に、小さな主人公を描こうとすればするほど、
    エヴァの心の穴の空洞が広がっていくようでした。

    2つの作品で描かれている”闇”を眺めながら、
    そこに自分の影を、静かに浮かべてみます。
    深く呼吸をして、温度、湿度、匂い、
    そして少しの風を感じます。
    自分の影が淡くなればなるほど、
    自分が風景に滲んで、
    そこにいたのだと気づきます。

    旅に出るのだとしたら、
    朝の清々しい、まっすぐな光の中で出発するのが
    一番だなと思っていました。
    けれども、
    身を潜めて、自分の影を眺める夜も、
    真夜中に味わうハンバーガーも、
    夜明けまでにできるだけ遠くに行く旅も……

    闇と灯りの間の境目のあたりに目を凝らすと、
    それぞれに主人公がいて、
    それぞれの旅があるのだと気づきます。

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